2023年04月14日
金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下「DWG」)は、2022年6月に公表された「ディスクロージャーワーキング・グループ報告」(2022年6月13日)で、四半期開示について、金融商品取引法(以下「金商法」)上の四半期報告書(第1・第3四半期)を廃止して、取引所の四半期決算短信に「一本化」する方向性が示されました。この具体化に向けた課題が、2022年10月から、引き続き検討され、その検討結果がDWG報告として2022年12月27日に取りまとめられました。
今回の四半期決算短信への「一本化」は、第1・第3四半期に2つの開示資料(四半期決算短信、四半期報告書)を作成するという重複業務を削減することによって財務諸表作成者の負担を軽減し、開示の効率化を図るという趣旨があります。近年、企業情報の開示が要求される項目が増加傾向にあり、今後もサステナビリティなどの非財務情報の開示が相当程度増加することが予想されます。このような中で、四半期開示の見直しによって、財務諸表作成者にとり開示負担が軽減されることは望ましい点であると考えます。
DWG報告で取り扱われた四半期決算短信の一本化の具体化に向けた論点とその検討結果の概要は以下の通りです。
(1)四半期決算短信の義務付けの有無
● 開示の後退と受け取られることで日本市場全体の評価が低下するおそれ等に鑑みて、当面は、四半期決算短信を一律に義務付け
● 将来的な四半期決算短信の任意化については、今後、適時開示の充実の達成状況や企業の開示姿勢の変化のほか、適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見等を踏まえた上で、幅広い観点から継続的に検討
(2)適時開示の充実
● 取引所における好事例の公表やエンフォースメント(罰則)の強化のほか、適時開示ルールの見直し(細則主義から原則主義への見直し、包括条項における軽微基準の見直し)について、取引所において継続的に検討
● 将来的に、重要な適時開示事項(例えば、企業が公表する重要な財務情報等)について企業側で過度な負担とならない範囲で臨時報告書の提出を求めることを検討
(3)四半期決算短信の開示内容
● 投資家の要望が特に強い事項(セグメント情報、キャッシュ・フローの情報等)について、四半期決算短信の開示内容を追加する方向で、取引所において具体的に検討
● 直近の有価証券報告書の記載内容から重要な変更(例えば、DWG報告において開示の充実が提言されている「重要な契約」に重要な変更があった場合等)があれば、臨時報告書の提出事由とする。
(4)四半期決算短信に対する監査人によるレビューの有無
● 四半期決算短信については監査人によるレビューを一律には義務付けない。
● レビューの有無を四半期決算短信において開示する。
● 会計不正が起こった場合(これに伴い、法定開示書類の提出が遅延した場合を含む)や企業の内部統制の不備が判明した場合、取引所規則により一定期間、監査人によるレビューを義務付ける。
(5)四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメント(罰則)
● 虚偽記載に対しては、取引所において、エンフォースメントをより適切に実施
● 将来的に 、重要な適時開示事項(企業が公表する重要な財務情報等)を臨時報告書の提出事由とする場合には、四半期決算短信に含まれる情報も重要な適時開示事項に含め臨時報告書の提出事由とすることを検討
(6)半期報告書及び中間監査のあり方
● 上場企業は、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求め、提出期限を決算後45日以内とする。
● 非上場企業も上場企業と同じ枠組みを選択可能とする。
● 特定事業会社(銀行、保険等)については、上場企業と同様の制度に見直すかどうか、 引き続き検討
(7)その他の論点(公衆縦覧期間の延長)
● 半期報告書及び臨時報告書の金融商品取引法上の公衆縦覧期間(それぞれ提出後3年間・1年間)がこれらの報告書の虚偽記載に対する課徴金の除斥期間(各報告書提出後から5年間)より短いため、5年間へ延長
2023年3月14日に、四半期報告書の提出義務づけを廃止する金商法改正法案が国会に提出されました。これにより、2024年4月以降、第1・第3四半期報告書はなくなり、取引所規則に基づく四半期決算短信の開示に一本化され、金商法上、四半期報告書が廃止されることで、半期報告書の提出が義務づけられることになります。この半期報告書については、現行の第2四半期報告書と同様、決算後45日以内に提出することが見込まれます。本改正は、財務諸表作成者にとり開示負担が軽減されるものの、開示の後退とも見られかねないので、適切な適用に向け監査法人と企業との十分な協議が必要になると考えます。
(参考)金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(2022年12月27日)